その6 オープン・サンドイッチ
 

万里は大食いだった。
テレビの仕事でロシアに行ったとき、万里は「ツバキ姫」というあだ名をつけられた。
それはヴェルディのオペラ『椿姫』の主人公から取ったあだ名ではなく、パサパサのサンドイッチを飲み物なしに次々と平らげたからなのだ。
向こうのパンは日本のパンのようにしっとりしていない。
上に湿り気のある具が載っているとしても、途中、飲み物で一息入れなければむせてしまう。
唾が多いから「ツバキ姫」というわけ。

姉唯一の長編小説、『オリガ・モリソヴナの反語法』の主人公・志摩は、自分自身をモデルにしている。
だからオープン・サンドイッチ七つの一気食いが出来てしまうのだ。

オープン・サンドイッチはチェコでもロシアでもよく食べる。
プラハのカフェには必ずあったし、ソビエト学校の第二朝食、という二時間目の後の長めの休み時間にカフェテリアで食べる給食にもよく出てきた。

プラハのオープン・サンドは小麦粉の白いパンのことが多かった。
代表的な具は、プラハ自慢のハム、シュンカだ。
この言葉はドイツ語のシンケン(ハム)からきているのではないかと思う。

わたしが大人になって暮らしたイタリアもハムが有名だ。
スーパーや専門店の売り場には、さまざまなハムが並んでいる。
パルマやサン・ダニエーレの生ハム、各地のサラミ、モルタデッラなどのソーセージ。その中にプラハと呼ばれるハムもあった。
そうか、プラハのハムはチェコ人が自慢するだけあって、ヨーロッパ中に知られているんだ。
なんだか嬉しく誇らしかった。

具に話を戻す。
このハムのオープン・サンドは、パンにまずポテトサラダだったり、カッテージチーズやゆで卵だったりを敷いて、その上にハム、チーズ、ピクルスなどを載せていることが多い。

ロシアのサンドイッチになると、北欧のオープン・サンドに近くなる。
ハムやサラミなどのソーセージを使ったものももちろんあるが、サーモン、いくら、ニシンのマリネなど海の幸の具がけっこう多い。
パンも白いパンだけでなく、ライ麦の黒パンをよく使う。

〈作り方〉
今回、材料や作り方の説明をするほどのことではないので、具材の紹介のみ。
パンは三種類、
小麦粉のバゲット、ライ麦40%のパン、ライ麦70%のパン
まずパンにバターを塗る。

(1)サラミソーセージ
グリュイエールチーズ
アンチョビ、ケッパー
 
(2)玉ねぎスライス
ニシンの塩漬け(イワシ、アジなどでもよい)
ピクルス
 
(3)スモークサーモン
イクラ
レモン
サワークリーム
ディルの葉
 
(4)カッテージチーズ
ハム
ゆで卵
ピクルス
オリーブ
 
(5)玉ねぎスライス
オイルサーディン
レモン
パセリ
 
*ニシンの塩漬けの作り方(イワシ、サンマ、アジなどでも)
(1)魚を三枚に卸し、たっぷりの塩とその半量の砂糖をまぶす。
(2)30~40分おく。
(3)水で塩と砂糖を洗い流し、水気をよくふく。
(4)皮をひいて、小骨があれば骨抜きで取り除く。
このあとお酢(リンゴ酢、穀物酢)でマリネしてもよい。

オープンサンドは、パンに合うものであれば何を載せてもよい。
アクセントにピクルス、オリーブ、ケッパー、アンチョビーやハーブがあると味がグッと引きしまる。

 お皿は万里お気に入りのハンガリーのヘレンド。
 小皿には姉の好きなオイルサーディンと、ハムを載せた。
大皿に八個。ほぼこの量を志摩は一気食いしたわけだ。